顧客の印象に残る屋号のつけ方
時代の変遷と昨今の流行をふまえて
飲食店を開業する際、メニューや内装と同様に重要なのが「屋号(店名)」です。屋号は顧客の記憶に残り、口コミやSNSで拡散されるブランドの核となります。本記事では、時代とともに変化してきた飲食店の屋号の傾向を振り返りながら、今日の飲食業界で印象に残る屋号のつけ方について解説します。
1. 飲食店屋号の歴史的変遷
昭和時代(1980年代まで)
特徴:
- 店主の苗字や名前を使った屋号
- 地名に「〜軒」「〜亭」を付けたシンプルな命名
- 業種を直接表す名前(「〜食堂」「〜酒場」など)
- 縁起物や自然にちなんだ古風な名前
代表例:
- 「鈴木屋」「山田食堂」といった店主の名前をそのまま使用
- 「丸福」「大黒屋」など、縁起の良い言葉を用いた短い屋号
- 「ふじ」「松竹」など、自然物をモチーフにした名前
この時代の屋号は、わかりやすさと親しみやすさが特徴でした。店主の顔が見える命名で、地域に根ざした営業スタイルを反映していました。
バブル期〜1990年代
特徴:
- 外国語(特に英語、イタリア語、フランス語)を使った洗練された印象の屋号
- 造語や複合語を用いた独創的な名前
- カタカナ表記の増加
- 個性やコンセプトを強調する命名
代表例:
- 「カフェ・ド・パリ」「リストランテ・ベニーレ」など、外国語で「本格的」を演出
- 「ダイニングバー・エッセンス」など、業態とコンセプトを組み合わせた名前
- 「キッチンジロー」など、カタカナ×人名の組み合わせ
バブル経済の影響で、海外志向や差別化を意識した屋号が急増。「本格的」「洗練された」というイメージを屋号に込める傾向が強まりました。
2000年代〜2010年代前半
特徴:
- 和洋折衷の屋号(和食店に洋風名、洋食店に和風名)
- ストーリー性のある長めの屋号
- ひらがな表記の増加(親しみやすさの演出)
- 単語の組み合わせによる独自性の追求
代表例:
- 「イタリアンダイニング 和心」など、ジャンルミックスを表現
- 「青空食堂 風のテラス」など、情景が想像できる名前
- 「ちゃぶだい」「おさかな亭」など、親しみやすいひらがな表記
- 「ワイン食堂 Homme」など、日本語と外国語の組み合わせ
この時代は、バブル崩壊後の「等身大」志向と、差別化の両立を図る命名が特徴。インターネット検索を意識した、他店と被らない独自性のある名前づけも意識され始めました。
2010年代後半〜現在
特徴:
- 短くシンプルでSNS映えする屋号
- 数字や記号を取り入れた現代的な名前
- 地域名や食材名を直接的に取り入れた透明性の高い屋号
- 古風な言葉の現代的解釈とリバイバル
代表例:
- 「BLUE」「noka」など、シンプルで印象的な単語
- 「&LOCALS」「THE FARM」など、英語の定冠詞や記号を活用
- 「渋谷焼肉」「博多もつ鍋」など、地域名+料理名の直接的表現
- 「昭和食堂」「大正ロマン亭」など、時代をイメージさせる名前の復活
現代は、SNSでのシェアやWeb検索での発見を意識した命名が主流。店名=ハッシュタグという発想で、拡散性を重視する傾向があります。
2. 2025年現在のトレンドとこれからの動向
現在の主要トレンド
①ミニマリズムとシンプル化
一単語や短いフレーズによるインパクトのある屋号が人気です。例えば「SALT」(塩専門料理店)、「Blue」(魚介専門店)など、コンセプトを凝縮した単語で表現します。この傾向は、スマートフォンでの表示やSNSでの拡散のしやすさを意識したものです。
成功事例: 東京・清澄白河の「嘘」という創作和食店は、あえて挑戦的な名前でSNSでの話題性を獲得。「なぜこの名前なのか」という好奇心を呼び、実際に料理は「嘘のように美味しい」と評判になっています。
②地域性と食材の強調
「渋谷羊肉酒場」「麻布十番海鮮」など、立地と料理ジャンルを直接的に表現する屋号が増加しています。検索エンジンでの上位表示を意識したSEO対策の側面もあります。
成功事例: 「恵比寿牡蠣」という店名のシーフードレストランは、Googleで「恵比寿 牡蠣」と検索すると必ず上位に表示されるため、観光客や初見の顧客を効率的に取り込んでいます。
③数字や記号の活用
「&COFFEE」「PASTA+」「29BURGER」など、記号や数字を取り入れた現代的な屋号が目立ちます。特に「&(アンド)」「+(プラス)」は、「〜と〜の融合」というコンセプトを表現しやすいため人気です。
成功事例: 「365日」というベーカリーカフェは、毎日通いたくなるというコンセプトを店名に込め、実際にリピーターの多い店舗となっています。数字が入ることで記憶に残りやすいという効果もあります。
④職人技や専門性の表現
「鮨 匠」「麺 達人」など、料理人の技術や専門性を強調する屋号も根強い人気です。特に高級店では、シンプルながらも「技術と経験」をアピールする名前が支持されています。
成功事例: 「炭 善」という焼き鳥専門店は、店名に「炭」を入れることで、炭火焼きへのこだわりを表現。シンプルながらも、焼き方へのこだわりが伝わる屋号で常連客を獲得しています。
⑤ローカル志向と懐古趣味
「昭和横丁」「大正食堂」など、特定の時代や古き良き日本をイメージさせる屋号も増加傾向です。特に30代以上の顧客に響く傾向があり、郊外店舗やファミリー層をターゲットにした店舗で人気です。
成功事例: 「平成ホルモン」という焼肉店は、あえて「平成」という元号を屋号に使用することで「懐かしさと新しさの融合」を表現し、幅広い年齢層の客を取り込むことに成功しています。
これからの屋号トレンド予測
AIとの共存を表現する名前
「AI Kitchen」「データ食堂」など、テクノロジーとの融合を示唆する屋号が今後増えていくでしょう。特に若い世代をターゲットにした店舗では、先進性をアピールする名前が支持されるようになります。
サステナビリティの表現
「GREEN TABLE」「エコ食堂」など、環境配慮や持続可能性を表現する屋号も増加すると予想されます。SDGsへの取り組みを店名に込めることで、価値観の共有による顧客獲得を図る動きが加速するでしょう。
「第三の場所」としての存在感
「MY SECOND HOME」「リビング」など、家でも職場でもない「第三の居場所」としての飲食店の役割を表現する屋号が注目されています。コロナ禍を経て、人々の「居場所」に対する価値観が変化したことを反映しています。
3. 業態別・屋号の特徴とつけ方のポイント
高級和食・割烹
特徴的な屋号のパターン:
- 店主の名字に「〜」を付ける(「銀座 小十」など)
- 日本の伝統的な美意識を表す言葉(「雅」「粋」「凛」など)
- 素材や調理法を強調する直接的表現(「炭火 瞬」など)
命名のポイント:
- 高級感を損なわないシンプルさを重視
- 漢字一文字やシンプルな組み合わせがおすすめ
- 読み方と意味の両方が理解しやすいものを選ぶ
カジュアルダイニング・居酒屋
特徴的な屋号のパターン:
- 親しみやすいひらがな表記(「いろどり」「きずな」など)
- 飲食シーンを想起させる表現(「宴」「酔処」など)
- 地域名+業態名の組み合わせ(「渋谷横丁」「浅草酒場」など)
命名のポイント:
- 入りやすさと覚えやすさを優先
- 地域性や客層に合わせた親しみやすさ
- 発音しやすく呼びやすい名前を意識
カフェ・スイーツ店
特徴的な屋号のパターン:
- 英単語や外国語を使った国際的な印象(「LIGHT HOUSE」「Bonheur」など)
- 自然や植物をイメージする言葉(「森の香」「花時間」など)
- 感情や感覚を表現する抽象的な言葉(「しあわせのひとさじ」など)
命名のポイント:
- 女性客が多い業態では、温かみや優しさを感じる名前が効果的
- インスタ映えを意識した「ハッシュタグになりやすい」名前
- 店内の雰囲気や提供価値を連想させる言葉選び
ラーメン店・麺類専門店
特徴的な屋号のパターン:
- 店主の名前+「〜家」「〜屋」(「麺屋 武蔵」など)
- スタイルや特徴を端的に表現(「豚骨一燈」「煮干しそば 凪」など)
- 数字や記号を用いた印象的な名前(「175°DENO」など)
命名のポイント:
- 専門性と個性の両立
- ライバル店との差別化を意識
- 行列ができる店を目指すなら、インパクト重視の命名を
エスニック料理・世界各国料理
特徴的な屋号のパターン:
- 本国の言葉や地名を取り入れる(「サバイ・サバイ」「DELHI」など)
- 異国情緒を感じさせる言葉(「アジアンテラス」「地中海キッチン」など)
- 料理のルーツとなる地域や歴史を表現(「スパイスロード」など)
命名のポイント:
- 本格志向か、日本人向けにアレンジしたものかの立ち位置を屋号に反映
- 発音のしやすさと覚えやすさのバランス
- 現地の言葉を使う場合は意味を確認(意図しない意味になっていないか)
4. 印象に残る屋号をつけるための7つのステップ
①コンセプトとターゲットを明確化する
屋号は店舗コンセプトの言語化です。「誰に」「どんな価値」を提供するのかを言葉にすることから始めましょう。例えば、「忙しいビジネスパーソンに、手早く栄養バランスの良い食事を提供する」なら、「TIME NUTRITION」「3分食堂」などの選択肢が生まれます。
②キーワードリストを作成する
コンセプトから連想される言葉を20〜30個リストアップしましょう。料理のジャンル、使用する食材、調理法、店の雰囲気、立地の特徴、顧客に提供したい感情など、あらゆる角度からキーワードを集めます。
③組み合わせとバリエーションを試す
キーワードを組み合わせて、10〜20個の屋号候補を作成します。漢字、ひらがな、カタカナ、アルファベットなど、表記方法のバリエーションも試してみましょう。例えば「海の恵み」は、「うみのめぐみ」「Sea Blessing」などと表記を変えるだけで印象が大きく変わります。
④検索性とオリジナリティを確認する
候補に挙がった屋号をインターネットで検索し、同名・類似名の店舗がないか確認します。商標登録されている場合はトラブルの元になるため注意が必要です。また、SNSでハッシュタグ検索して使用状況を確認しましょう。
⑤読みやすさと発音のしやすさをチェック
屋号は口コミで広がることを想定し、発音しやすく聞き取りやすいものが理想的です。特に電話予約を受ける店舗は、電話口での聞き間違いが少ない名前がおすすめです。また、海外からの観光客も想定される立地なら、国際的な発音のしやすさも考慮しましょう。
⑥将来の展開も視野に入れる
将来的に多店舗展開や業態拡大の可能性がある場合は、特定の地域名や限定的な料理名を屋号に含めると制約になる可能性があります。柔軟性のある名前づけを心がけましょう。
⑦周囲の意見を取り入れる
数点に絞った候補について、家族や友人、同業者など複数の人に印象を聞いてみましょう。特にターゲット層に近い人の意見は参考になります。「聞いてどんな店をイメージするか」「覚えやすいと感じるか」などの質問が効果的です。
5. 屋号に関する法的制約と注意点
商標登録の確認
すでに商標登録されている名称は使用できません。特に全国チェーン展開している店舗名や、著名な店舗名との類似は避けるべきです。特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)などで事前に確認しましょう。
誤解を招く表現への注意
「本家」「元祖」「創業〇〇年」など、事実と異なる歴史や由来を想起させる表現は、景品表示法違反となる可能性があります。また、医療や健康に関する効果を連想させる名称も規制対象となることがあります。
差別的表現や公序良俗に反する表現の回避
不快感を与える言葉や、特定の集団を差別するような表現は避けるべきです。一部では話題性になると考えられがちですが、長期的なブランド構築の観点では大きなリスクとなります。
海外展開を視野に入れる場合
将来的に海外展開の可能性がある場合は、現地言語で不適切な意味にならないか、商標が取得可能かなどを事前に調査しておくことをおすすめします。有名な例として、日本語では問題ない「クリームパイ」が英語圏では別の意味を持つケースなどがあります。
6. まとめ:記憶に残る屋号のための3つの原則
原則1: 差別化と記憶のしやすさのバランス
あまりに一般的すぎる名前は記憶に残りにくく、あまりに奇抜すぎる名前は受け入れられにくいというジレンマがあります。業界内での標準から少しだけ外れた「適度な差別化」が記憶に残りやすいとされています。例えば、イタリアンレストランならイタリア語の使用は一般的ですが、あえて和風の言葉と組み合わせるなどの工夫が効果的です。
原則2: ストーリーと意味を持たせる
単に響きが良いだけでなく、「なぜこの名前なのか」というストーリーを持たせることで、顧客との会話のきっかけとなり、記憶に定着しやすくなります。店主の故郷、大切にしている価値観、食材へのこだわりなど、屋号に込めた思いを言語化しておきましょう。
原則3: 屋号は「約束」であることを意識する
屋号は店舗が顧客に対して行う「約束」の一つです。「炭火焼肉 匠」という名前なら、実際に炭火へのこだわりと職人技が感じられる店であるべきです。屋号と実際の店舗体験にギャップがあると、顧客の信頼を失う原因となります。
飲食店の屋号は、ただの記号ではなく、ブランドの核となる重要な要素です。時代の変化とともに屋号のトレンドも変わりますが、「誰に、どんな価値を提供するのか」という本質は変わりません。この記事で紹介したポイントを参考に、あなたの店舗コンセプトを的確に表現する、記憶に残る屋号をつけてください。良い屋号は、開業前の段階から顧客の期待を高め、オープン後の集客を後押しする強力な武器となるでしょう。
◯会社概要
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